次の読むべきアガサ・クリスティーはこれ!おすすめ小説10選

 アガサ・クリスティーが誰なのかを説明する必要はないでしょう。ミステリーの女王と称されるほど、世界で最も売れている作家であり、今でもその作品は映像化され続け、人々に愛されています。

 

  アガサ・クリスティーの作品といえば、『そして誰もいなくなった』と『オリエント急行殺人事件』が特に有名で、『アクロイド殺し』『ABC殺人事件』『ナイルに死す』もよく代表作に挙げられます。この5作はすでに読んだことがあるという人も多いと思いますし、まだ読んだことがないなら(特に最初に挙げた3作は)すぐさま読んでみてほしいです。

 

 しかし、この5作を読み終わったらどうすれば良いのでしょう? クリスティーの小説は約100冊あるので、残りは95冊。やみくもに選んで読むには、ちょっと大変です。そこで、今回はその95冊の中からおすすめしたい10冊を厳選して紹介します。

 

 

『スタイルズ荘の怪事件』

 アガサ・クリスティーの処女作にして探偵エルキュール・ポアロの初登場作。ヘイスティングスが招かれた家で自殺とも殺人とも考えられる事件が起きて、友人のポアロが事件に挑みます。極めてオーソドックスな本格ミステリー。地味な話ですが、本格ミステリーの面白さは十二分に備えており、ミステリーファンならば確実に満足できる一作になっています。

 

『死との約束』

 中東のエルサレムに旅行に来た一家で起こる殺人事件にポアロが挑む。設定は『ナイルに死す』や『メソポタミアの殺人』に似ていますが、こっちの方が短くてキャラクターが濃いので読みやすいです。ミステリーとしての切れ味も良く、読後感も爽やかです。

 

『白昼の悪魔』

 リゾート島で起こった女優殺人事件にポアロが挑む。バカンスに来たような明るい雰囲気と愛憎入り交じるドロドロの人間関係が殺人事件を彩ります。そして、気持ち良いほど完全に騙されます。伏線があまりにも上手すぎて、一度読み終わったらすぐにもう一度読み返したくなってしまうかもしれません。

 

『五匹の子豚』

 16年前に起こった殺人事件をめぐり、ポアロは5人の関係者に話を聞いて真犯人を解き明かそうとする。クリスティーのミステリーでは、しばしば「過去の事件」が扱われます。つまり、事件が起こったのが昔なので、現場や証拠は全く残っておらず、主に関係者の記憶をもとに謎を解かなければならないミステリーです。『五匹の子豚』では、同じ出来事であっても5人がそれぞれ全然違う見方をしていることがわかり、事件の様相は二転三転します。その中から真実を導く過程は圧巻です。

 

『忘られぬ死』

 1年前に亡くなった美女を回顧する6人の男女が再び集まり、死の真相を解き明かそうとする。恋愛関係をメインに、複雑な人間関係が描かれる。しばしば本格ミステリー作家は人間を描くのが下手だと言われることがありますが、クリスティーは例外です。感情の機微とそれをミステリーに絡めるのが、もの凄く上手いです。

 

『予告殺人』

 地方新聞に「殺人お知らせ申し上げます」との広告が掲載され、何かのミステリー風のパーティだと思った人々が集まったとき、銃声が鳴り響く。ミス・マープルが事件に挑む。かなり有名な小説なので、そのトリックは今ではさほど新鮮には感じないかもしれません。それでも、緻密に張り巡らされた伏線には唸らされます。

 

『葬儀を終えて』

 葬儀の後にいきなり「だって彼は殺されたんでしょ?」と無邪気に言った人物が翌日に殺され、ポアロが事件の解決に乗り出す。親戚一族が容疑者になる典型的なフーダニット(犯人当て)ミステリーです。でも、その真相を見抜くのは容易ではありません。

 

『鏡は横にひび割れて』

 往年の女優がパーティを開いたところ、招待客の一人が殺されてしまった。ミス・マープルが、持ち前の人間観察力で事件に挑む。フーダニット(誰がやったのか)、ハウダニット(どうやってやったのか)の要素もありますが、特にホワイダニット(なぜやったのか)の動機ミステリーとして評価の高い一作。伏線がぴたっとハマる瞬間が気持ち良い。

 

『謎のクィン氏』

 事件が起こるといつの間にか現れ、さらっと解決してどこかに消えてしまう謎の人物ハーリー・クィンを主人公とした短編集。殺人事件だけでなく日常的なミステリーも扱われ、ラブストーリーや幻想的な要素が強く、ポアロやミス・マープルものとは一味違った物語が楽しめます。

 

『春にして君を離れ』

 クリスティーがメアリ・ウェストマコット名義で書いたノンミステリー作品。実は、クリスティーの裏ベストとの呼び声も高い知る人ぞ知る名作。あらすじは、ある品行方正な妻であり母親である女性が、旅先で過去を思い返す……。こんな説明では大して面白くなさそうですが、実は結構怖い小説です。心理的に。

 

個人的アガサ・クリスティーベスト10

 ここまで、アガサ・クリスティーの超有名作5作以外でおすすめしたい10作品を紹介してきました。ここで、個人的に好きなクリスティー作品トップ10を挙げておきます。

 

第1位『そして誰もいなくなった』

第2位『死との約束』

第3位『白昼の悪魔』

第4位『オリエント急行殺人事件』

第5位『葬儀を終えて』

第6位『鏡は横にひび割れて』

第7位『ABC殺人事件』

第8位『検察側の証人』

第9位『忘られぬ死』

第10位『パーカー・パイン登場』

 

 順位は適当に付けただけなので、さほど気にしないでください。ただし、『そして誰もいなくなった』は永遠の1位です。すべての小説の中で1位。これほどスリリングな物語はありません。これがなければ綾辻行人の傑作『十角館の殺人』はなく、いわゆる「孤島もの」「雪山の山荘」という本格ミステリーの一大ジャンルもないわけですから、そういう面でも偉大すぎる大傑作です。

 

 あとはすでに紹介した作品ばかりですが、8位と10位はしてないですね。8位の『検察側の証人』は戯曲です。ビリー・ワイルダー監督の映画『情婦』の原作でもあります。終盤の衝撃が凄い。

 

 10位の『パーカー・パイン登場』は、人々の悩みをユニークな方法で解決するパーカー・パインの活躍を描いた短編集です。微笑ましくもあり、驚きもあり、読んでいてとても楽しかったです。

 

 『アクロイド殺し』は、初読のときにピンとこなかったんですよね。犯人は知らなかったのですが、へぇ~としか思わなかった記憶があります。あれだけ衝撃的な真相なのに。ここで使われてるのは、日本の新本格ミステリでお馴染みの○○トリックの最も基本的な形なので、類似作をどこかで読んだことがあったのかもしれません。

 

 ともあれ、アガサ・クリスティーが世界で最も偉大な作家の一人であることは異論はないと思いますし、気になった作品があったらどれでもまずは読んでみてください。