ピエール・ルメートルのヴェルーヴェン警部3部作を紹介!フランス産の強烈傑作ミステリー

 ピエール・ルメートルの小説は、残酷ですが、驚きの展開や真相も多く、ミステリーとして非常に面白いものばかりです。ということで、ピエール・ルメートルの代表作『その女アレックス』を含むカミーユ・ヴェルーヴェン警部3部作の紹介と、ニューウェイブ・オブ・フレンチホラー映画との関連などを語っていきます。

 

 

 

ヴェルーヴェン警部3部作

 日本で2014年に刊行されたフランスの作家、ピエール・ルメートルによる『その女アレックス』は、サプライズヒットを記録し、「このミステリーがすごい!」や「本屋大賞翻訳小説部門」など様々なブックランキングで1位を獲得しました。

 

 探偵役を務めるのは、低身長で人間臭い魅力のあるカミーユ・ヴェルーヴェン警部。彼と彼の捜査班が、凄惨な事件の数々を担当することになります。ヴェルーヴェン警部は3部作となっており、1作目は『悲しみのイレーヌ』です。日本では『その女アレックス』の方が先に出版されましたが、順番を間違えないようにしましょう。ネタバレしてしまうので。

 

『悲しみのイレーヌ』

 ヴェルーヴェン警部とその仲間たちの初登場。内臓や血が現場の部屋ぶまき散らされている凄惨な殺人事件を担当することになった捜査班。規格外の凶暴さと狡猾さを持つ犯人を追う。3部作の中では一番ミステリーとして読みどころがあるのかなと思う。後味の悪さも一番。

 

『その女アレックス』

 日本でもヒットしたシリーズ2作目。監禁されたアレックスの壮絶なサバイバルを描いている。パニック映画的なものかと思って読んでいると、無数のどんでん返しに驚かされ続ける。それとともに、善悪の視点がころころ変わっていく展開が圧倒的に面白い。

 

『傷だらけのカミーユ』

 3部作の最終作。カミーユと付き合っていたアンナが、強盗犯によって瀕死状態になり、カミーユは捜査に乗り出す。カミーユの捜査チームは色々あってあまり登場しないので、実質的にカミーユの一人捜査。悲しみのカミーユだと思う。

 

『死のドレスを花嫁に』

 ヴェルーヴェン警部シリーズではないが、同じ作風のサスペンス・ミステリー。しばしば記憶をなくすことがあるソフィーは、ある殺人現場にただ一人居合わせてしまったため、逃走を始める。驚きの真相とともに人間の狂暴すぎる悪意が現れる。他の3作よりも読後感は良い。

 

 

ニューウェイブ・オブ・フレンチホラー

 フランスの推理小説というと、謎解きというよりは恋愛要素が強めで、他国と比べてもふんわりした印象がありました。ところが、ピエール・ルメートルの小説は、その正反対です。徹底的な残虐描写が繰り広げられます。後味も最悪です。

 

 フランスから、いきなりこんなタイプの小説が出てきたのには驚きましたが、意外にもフランスの映画界でも同様の現象が起こっていました。そこで、私はこんな仮説を立てます。ピエール・ルメートルは、00年代のフランス映画界で起こった「ニューウェイブ・オブ・フレンチホラー」に感化されて、カミーユ・ヴェルーヴェン警部3部作を書いたのではないでしょうか。

 

 ニューウェイブ・オブ・フレンチホラーとは、2003年の『ハイ・テンション』に始まり、『屋敷女』(2007年)、『フロンティア』(2008年)、『マーターズ』(2008年)などに代表されるフランスのホラー映画のムーブメントです。

 

 これらの作品の傾向として、目を背けたくなるほどの残虐描写や最悪の気分になる胸クソ展開が挙げられます。また、従来のホラー映画の定石をあえて破り、予想外の展開があることも共通しています。

 

 ピエール・ルメートルの『悲しみのイレーヌ』が2006年、『その女、アレックス』が2011年に本国では刊行されているので、時期的にはちょうど合っています。しかも、2009年刊行の『死のドレスを花嫁に』は、映画『ハイ・テンション』のアレクサンドル・アジャ監督による映画化の企画すらありました。

 

 この企画は実現しなかったようですが、ピエール・ルメートルの作品群とニューウェイブ・オブ・フレンチホラーの作品群の相性が良いのは確かです。残虐描写を文章で読むのと映像で見るのとではまた違いますが、私はどちらも気に入ったので、興味がある人はぜひこれらの映画も観てみてください。