今年に入ってからこのブログで読書記録を残しています。今回は第2弾。前回の記事から今までに読んだ8冊の簡単な感想を記しています。今回も、海外ミステリー×3、国内ミステリー×2、海外SF×2、ビジネス書×1という独特すぎるラインナップになっています。でも、本屋や図書館を歩き回っているときも知らない本や興味のないジャンルの本を見つけられるから面白かったりするんですよね。そんな気持ちで眺めていってください。
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『ストーンサークルの殺人』M・W・クレイヴン
あとがきに「イギリス版ハリー・ボッシュ」と書かれていたのですが、おそらくそれが一番簡潔で腑に落ちる説明だと思います。本格ミステリーというよりは、刑事小説といった趣が強かったように感じます。長めの本ですが、ストーンサークル遺跡の中心で老人が焼き殺されるというショッキングな事件性と、PCは得意だけど社交性ゼロの分析官ティリーの愉快さで、サクサク読めてしまいました。
『ジェノサイド』高野和明
10年ほど前ですが、当時は「このミステリーがすごい!」1位に選ばれたりしたそうです。その評判で読んでみたのですが、ミステリーというわけではなかったですね。エンタメ要素が9割、ミステリー要素は1割ぐらい。エンタメ小説としては、ミリタリーアクションあり、人類を救う薬の開発あり、ホワイトハウスありで、盛りだくさん。ただ、個人的にミリタリーものがあまり好きでなかったり、創薬やホワイトハウスの話もいまいちリアリティが感じられず、ハマらなかった。
『もの言えぬ証人』アガサ・クリスティー
クリスティーお得意の「過去の殺人」を扱ったミステリーです。ポワロは、依頼人がすでに死んでしまった事件の捜査に乗り出します。様々な証人によって事件や人間関係が語られていくのですが、それぞれ言っていることが違うので、事件の見え方もころころ変わっていきます。同じ事柄でも、人によってこんなに見方が違うのかと思うと面白い。事件解決に至るロジックは弱く、本格ミステリーとしては詰めが甘いものの、クリスティーの犬好きの面が見られるのは微笑ましい。
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック
映画『ブレードランナー』の原作ですが、内容はかなり違います。むしろ、映画『ブレードランナー2049』の方が、内容的には近いようにすら感じられます。原作では、人間vsアンドロイド、本物の動物vs機械動物といった対比を通して、生物と非生物の境界を探っていきます。その哲学的なストーリーは、今になっても全く古びていません。AI技術が急速に発展する一方、SNSの普及やコロナ禍の影響で他人との直接コミュニケーションの機会が減った現代では、本当に機械と人間の境界がわからなくなってくるかもしれません。
『幼年期の終り』アーサー・C・クラーク
『2001年宇宙の旅』と並ぶクラークの名作SF小説です。人間を遥かに上回る知能と技術を持つエイリアンが地球を統治するとき、人間は何をするのか? そして、待ち受ける人類の運命は衝撃的です。クラークのSFには「人類」という壮大な視点があるので、他のSFと大きく違うし、詩的で哲学的でもあります。1953年の作品ですが、特殊相対性理論がサラっと重要なポイントで使われていたり、科学に対する嗅覚が本当に優れている作家だなとも思います。
『ウーバー戦記:いかにして台頭し席巻し社会から憎まれたか』マイク・アイザック
配車サービス「ウーバー」を創業したトラヴィス・カラニックと会社の栄枯盛衰の物語。アメリカで放送されたドラマ『Super Pumped: The Battle for Uber』の原作です。ウーバーを大企業に成長させたのは紛れもなくカラニックの熱意であった一方、成長に重きを置きすぎるあまりに様々なトラブル(長時間労働、性差別、低賃金など)を引き起こしています。ギグエコノミーを一気に広めたウーバーはまさに革新的だが、その後の顛末はあまりにも無様。シリコンバレー型ビジネスの限界の一端が見えたような気がしました。
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『ヨルガオ殺人事件』アンソニー・ホロヴィッツ
翻訳ミステリ界を席巻した『カササギ殺人事件』の続編にして、またしても各種ミステリランキングを制した話題作です。今どき、海外でこれほどきっちり本格ミステリをやっている人がいることに驚くとともに感激です。前作と同様に『ヨルガオ殺人事件』も作中作の形を取っています。まず、作中作の『愚行の代償』がとてつもなく面白い。これだけでも傑作です。さらに、この作中作は本編の事件にも繋がってきます。前作ほど両作品の繋がりは強くないものの、『愚行の代償』が存在しなかったら本編の事件が解決されることはなかったので、作中作は必要不可欠です。面白いのが『愚行の代償』はいかにもアガサ・クリスティーの小説にもありそうな品行方正な人たちばかり出てくるのに対し、本編には性格が悪くて暴言を吐く人ばかり出てくること。そのおかげで、本編の方がちゃんと現実っぽいなと感じられるのは、ちょっとした皮肉です。
『匣の中の失楽』竹本健治
三大奇書こと『虚無への供物』『黒死館殺人事件』『ドグラ・マグラ』のエッセンスを受け継ぎ「第四の奇書」と称されることの多い本作。密室らしからぬ密室が続々と現れ、推理小説の枠組みを覆そうとする大作です。登場人物が全員推理小説好きの学生なので最後まで見分けがつかず、関係ないような豆知識をやたらと披露しまくるので、なんだか疲れてしまいました。でも、鏡映しの構造とでも言うような特殊なプロットはとても面白かった。最後に明かされる一連の事件の真相も良かった。
<作中作ミステリーの話>
読書記録はこれでおしまいですが、少し書いておこうかなと思ったことを書きます。偶然にも、ここ最近続けて読んだ『ヨルガオ殺人事件』と『匣の中の失楽』は、ともに作中作ミステリーを扱ったものでした。後者はだいぶ変化球ではありますが。
作中作ミステリーとは、小説の中に別の小説が入っているものです。代表的なところだと綾辻行人の『迷路館の殺人』やアンソニー・ホロヴィッツの『カササギ殺人事件』などがあります。
作中作ミステリーには2つの要件があります。①作中作そのものがミステリーとして面白いこと、②本編の事件は作中作と密接に絡んだものであること、です。①は普通のミステリーなので良いとして、重要なのは②です。本編の事件は何かしらの形で作中作の事件と密接に結びついており、そのことがわからなければ本編の事件が解けない、という構造になっている必要があります。というか、そうでないと作中作ミステリーにする必要がありません。
この「繋がり方」がユニークであればあるほど素晴らしいなと自分は思うのですが、この観点でいえば『カササギ殺人事件』は凄い。作中作ミステリーの決定版のようなところがあります。続編の『ヨルガオ殺人事件』もとても面白かったです。
中には、作中作ミステリーであること自体がネタバレになってしまうミステリーも存在します。アガサ・クリスティーのあの名作も、作中作ではないにしろ、小説の中にすっぽり別の文章が入っているという点では似ています。ネタバレでも良いから”あの名作”のタイトルを知りたいという人は、このリンクを踏めば某小説のAmazonページに飛びます。
作中作ミステリーは、一度読んだだけで二度、なんなら三度ぐらい美味しいジャンルです。好き。