ミステリー小説を書きたい①現代本格ミステリーへの違和感

 先日、初めて小説というものを書いてみて、出来上がった短編を第46回小説推理新人賞に応募しました。

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 でも、人気のあるミステリー小説は基本的に長編です。エドワード・D・ホックのような少数の例外はいますが、ほとんどの推理作家は長編で活躍しています。言い換えれば、長編が書けない人には推理作家になることなどできないのです。

 

 だから、最終目標を「長編推理小説を書くこと」として、今回から「ミステリー小説を書きたい」という連載をしていきます。

 

 当然、私は作家でもなんでもない一介のミステリーファンに過ぎないので、この連載は私の個人的な記録みたいなものです。くれぐれも参考にしないように。

 

なぜミステリーを書きたいのか

 そもそも、なぜミステリーを書きたいのか。まずは、その点をはっきりさせておきたいと思います。新人賞などでは、文章やトリックの上手さ以前に熱い思いが表れているような作品が良いと言いますから。

 

 私がミステリーを書きたいと思った理由は「新本格の惰性みたいな今のミステリー界に納得できないから」です。新本格がなんたるかはわざわざ説明しません。個人的な記録なので。具体的な不満点をいくつかメモしておきます。

 

1.特殊設定ミステリが多すぎる

 最近、やたらと特殊設定ミステリが流行っている気がします。確かに面白い作品は多いんです。今村昌弘の『屍人荘の殺人』『魔眼の匣の殺人』、市川優人の『ジェリーフィッシュは凍らない』などはとても面白かったです。ミステリーとしても非常によくできていますし、個々の作品に文句はありません。

 

 でも、私には特殊設定ミステリは逃げだと思ってしまう気持ちがどこかにあります。現実世界で本格をやれないから特殊設定に逃げているんだろうと。実際、『七回死んだ男』の西澤保彦も、普通のミステリが書けないから特殊設定でやっているんだと冗談めかして書いていたことがありました。

 

2.古典的な設定に頼りすぎ

 現代では、科学捜査が発達しすぎて本格をやるのが難しいという人がいます。そのため、通信環境の途絶えたクローズドサークルをわざわざ用意して連続殺人の起こる本格のいかに多いことか。先ほどの『屍人荘の殺人』や『ジェリーフィッシュは凍らない』を始めとして、周木律の『眼球堂の殺人』や早坂吝の『○○○○○○○○殺人事件』など、枚挙に暇がありません。

 

 これも逃げだと思っています。携帯電話が普及し始めてもう何年経ったのでしょう。今や、日本であれば山中でも孤島でも電波が届かないところはほとんどありません。それなのに、本格ミステリーの世界では未だに集まった人々からスマートフォンを回収してから始まる作品が後を絶ちません。もうそろそろスマートフォンを前提とした本格があっても良いんじゃないでしょうか。

 

3.理系ミステリの浅さ

 森博嗣が理系ミステリィを創始して以降、東野圭吾の『探偵ガリレオ』シリーズや周木律の『堂』シリーズなど、このジャンルは一定の人気を獲得するようになりました。しかし、これらの作品はどこかピントがずれているような気がします。

 

 理系ミステリは、理系ミステリであろうと躍起になりすぎて独特なジャンルになっています。なぜか、奇人の大学教授が出てきて、難しい理系用語をばら撒き、蘊蓄程度に科学現象を取り入れているような作品ばかり。

 

 理系って、そんなものじゃないです。奇人ではないのにとても頭の良い教授もたくさんいます。難しい用語を使わないと科学を説明できない人は、その分野の素人です。科学現象は、へぇ~と感じるから凄いのではなく、その背景を理論的に理解できるから凄いのです。

 

 特に『眼球堂の殺人』を読んでいて呆気に取られた設定があります。この小説に登場する”天才”建築家は「建築こそが至高の学問だ」と豪語しています。まったく噴飯ものです。建築が理系の王道だと思われているのも変。

 

 だって、物理学こそが至高の学問で、物理学だけが真の理系なのですから(控えめに言うとしても、さすがに建築よりはねぇ……)。

 

どんなミステリーを書きたいのか

 これで私が書きたいミステリーがはっきりしてきました。まず、本格であること。これは絶対です。なぜなら、私はこれまでほとんど本格ミステリーしか読んでこなかったので、これ以外の書き方がわかりません。

 

 そして、特殊設定でも古典的設定でもないこと。要は、普通の現代社会を舞台にするということです。そんな小説はいくらでもあるではないかと思われそうですが、本格ミステリーに関しては驚くほど少ないです。だから、何も誤魔化さずに現代の社会を舞台にした本格を書くことができれば、それはそれで価値のあるものになるはずです。

 

 それから、できれば理系ミステリであること。ただし、小手先の理系ではなく、理系の本質を突いた内容であること。私は、真の理系である物理学を専攻しているので、これはできないことはないはずです。というか、これこそ他の推理作家には絶対にできないことです。物理学の神髄を感じられるようなミステリーを書きたい。

 

 これが私の初心表明です。これで最終的にトンチキSFミステリーとかを書いていたら笑ってやってください。第1回、おしまい。