『ベター・コール・ソウル』シーズン6第9話の感想(ネタバレあり)

 これまで、このブログおよび「海外ドラマパンチ」では、『ベター・コール・ソウル』の感想をちゃんと書いてきませんでした。それは、なんというか、恐れ多かったからとでも言いましょうか。『ブレイキング・バッド』および『ベター・コール・ソウル』については、自分より詳しくて愛が深い人がたくさんいるので、いつものようにブログで偉そうに書く気になれなかったんですよね。でも、今回は書いてみます。お許しください。

 

※『ベター・コール・ソウル』シーズン6第9話までのネタバレを含みます。

 

 『ベター・コール・ソウル』シーズン6第9話のタイトルは「楽しい駆け引き」Fan and Games。このタイトルを見るだけで、絶対に楽しくないことがわかります。まったく。意地悪なタイトルを付けますね。

 

 物語は、前回の直後から始まります。ネタバレすると言ったので遠慮なく書きますが、第7話ではハワード・ハムリンが、第8話ではラロ・サラマンカが命を落としました。マイクはその後処理をして、ソウルとキムには、いつも通り仕事をするように指示します。2人は、実際、いつも通りの弁護士の仕事をしました。警察からの事情聴取されているシーンはありませんでしたが、これも上手くいったらしく、ハワードは自殺ということで公的に処理されます。

 

 その数日後、2人はハワードのお別れ会に出席します。ここでのハワードの妻との会話がキムの性格を非常によく表しています。ハワードがドラッグをやっていたわけがないと信じている妻は、ジミーを問いただします。ソウルは、警察に聞かれたときと同じように、彼らの部屋にやってきたときのハワードはいつもはと様子が異なり、おそらくドラッグをやっていたんじゃないかと答えます。それでも、ハワードの妻は信じてくれません。

 

 そこで、キムが念押しに大嘘をつきます。ハワードがオフィスでドラッグをやっているのを見たことがあると。悪質な嘘だと思います。キムがそんなことを言わなくても問題はなかったと思いますが、それでもキムは言いました。言いたくて仕方がなかったんでしょう。

 

 「ハワードが薬物中毒者である」というのはキムとソウルが作り出した物語であり、2人の発言次第でこの物語はどんどんリアルになっていきます。これが、キムにとってはもの凄く楽しかったと言います。

 

 嘘をつくことには、実際、ちょっとした禁断の愉しみがあります。少しの嘘だったら、罪悪感の方が勝ってしまいます。あぁ、あんなこと言わなければ良かったと。でも、徹底した嘘で人を完全に騙せたときは、とても達成感があります。だから、キムも口を出さずにはいられなかったのだと思います。

 

"I didn't want that because I was having too much fun."

- Kim Wexler, Better Call Saul 6×09

 

 キムにも罪悪感が全くなかったわけではないようです。特に、ハワードがあのような最期を迎えてしまったことに関しては責任を感じているようです。とともに、ジミーと一緒にいる限り、今後も自分が楽しんで嘘をつき続けてしまうことに気づきます。

 

 ジミーとキムの相性は傍から見ても抜群でした。しかし、それゆえに嘘に歯止めがかからず、周囲の人を傷つけ続けてしまいます。自分たちで事態が制御できる範囲ならば、まだ良かったかもしれませんが、ハワードの件は自分たちではどうしようもない要因が入り込んできたことで起こってしまいました。

 

 だから、キムは自発的に去ることにしました。切ない。こんなに切ない別れ方があるとは。2人はソウルメイトだったのかもしれないが、それゆえに別れなければならなかった。こっちも泣いちゃう。

 

 そして、ジミー・マッギルは完全にソウル・グッドマンになります。豪邸に住み、誰だかわからない女と寝て、不幸な事故で稼ごうとします。ジミーは、起こってしまったことはどうしようもなかったんだと考えられる人間です。自分には何もできなかったことだと思っているので、罪悪感を感じることもありません。どこかでバス事故が起こったら、もちろんそれは自分のせいではないので、何の罪悪感も感じずに被害者たちをそそのかして訴訟を起こさせることができます。

 

 ここまでが『ベター・コール・ソウル』シーズン6第9話の内容でした。このドラマは、ジミー・マッギルがソウル・グッドマンになっていく過程がメインストーリーになっています。ということは、ジミーがソウルになった時点で、ドラマは終了するはずです。でも、あと4話残っています。この4話で、一体何が描かれるのでしょう?

 

 注目すべき点は2つ。まず、『ブレイキング・バッド』との繋がりです。第9話が終わった時点で、ソウル・グッドマンは『ブレイキング・バッド』に登場するときと同じ状態になっています。カルテルの人たちも、ラロの件が終わったので、一段落付いています。あとは、化学教師のウォルター・ホワイトさえ出てくれば良いのですが、それは『ブレイキング・バッド』での話。わざわざ『ベター・コール・ソウル』でやるほどの内容はないような気がします。

 

 ただし、クリエイターのヴィンス・ギリガンかピーター・グールドが言っていたことが気になります。確か、2つのドラマは「誰も想像できないような繋がり方」をするとか言っていた気がします。すでに2つのドラマは繋がったようなものですが、さらに捻りを加えてくるということでしょうか。

 

 もう一つ注目したいのが、ジーン・タカヴィックの物語です。ジーン・タカヴィックは、『ブレイキング・バッド』の物語の後にソウル・グッドマンが姿を変えてシナボン屋で働いているときの名前です。『ベター・コール・ソウル』シーズン1~5の各シーズンの冒頭で白黒の映像で描かれていたのがジーンの物語です。

 

ジーン・タカヴィック総集編

youtu.be

 

 シーズン6の冒頭にはジーンの白黒のシーンはなく、代わりにソウルが逃走した後の豪邸が警察によって捜査される様子が描かれていました。ジーンの物語は、明らかに何かへの伏線(この動画を公式がアップしたのも今月のこと)ですから、あと4話のどこか、おそらく最終話でジーンの物語があることは間違いないと思います。

 

 そこでは、一体何が起こるのでしょう。ジーンの世界から完全に色が消え、寂しげな毎日を送っています。ファンの多くが予想し、最も期待しているのは、ここにキムがやってくることです。キムとジミーの再会が描かれるというわけですね。それは、とても嬉しいですが、本当にそうなったらファンの思惑通りなので、『ベター・コール・ソウル』らしくはないかもしれません。

 

 ジェシー・ピンクマンは、まだ生きています。名前を変えてアラスカに住んでいるはずです。それなら、ジェシーがソウルと再会するのでしょうか? だったら、キムで良くないか? と思ったりもします。どんな形であれ、昔のキャラクターとの再会だと、ある程度ファンにも予想が付いてしまいます。

 

 どんな予想をしても、『ベター・コール・ソウル』はその予想を超えてくるのではないかと思ってしまうので、全然予想が付きません。それで良いのです。あと4話。アルバカーキの物語は、これで本当に終わりを迎えます。うぅっ!